大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和36年(う)614号 判決

被告人 星野武彦

主文

本件控訴を棄却する。

理由

控訴の趣意第一について

所論は要するに、被害者橋本岩子は被告人の自動車のため道路上にはね飛ばされて転倒したが、同人が死亡するに至つたのはその場で自動三輪車に轢かれたからであり、しかも他の自動車が被害者が道路上に倒れているのに気付かずしてこれを轢くというが如きことは予見不可能であつたのだから、被告人の過失と橋本岩子の死亡との間には因果関係は認められず、従つて被告人は岩子の死亡につき刑責はないと主張するのである。

よつて案ずるに、橋本岩子は被告人の不注意な自動車の操縦によりはね飛ばされて負傷し道路上に転倒したところ、間もなく同所を通り過ぎた他の自動三輪車に轢かれたため死亡するに至つたものであるから、橋本岩子の死の直接の原因は自動三輪車が轢いたことに存することは勿論であるが、被告人が橋本岩子を転倒せしめたことが自動三輪車が同女を轢くに至つた原因となつていることは明らかであるから、被告人の過失と橋本岩子の死亡との間には因果関係が存するものというべく、しかして結果の発生につき他の条件が介在する場合でも、それに対する予見可能が、結果との間の因果関係の成立につき必要でないばかりでなく、本件においては夜間であり且つ交通の頻繁な箇所であるから、道路上に転倒している被害者を他の自動車が轢くに至ることは何人といえども当然に予見したところであると認められるから、被告人は橋本岩子の死亡につき過失傷害致死の罪責を免れることはできない。それゆえ論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 長谷川成二 白河六郎 関重夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例